恋に恋する千枝子女史をめぐる、ユーモラスかつ切実な短篇小説。千枝子はつねに人外──人魚、一角獣、吸血鬼──に恋慕し、クラス中の者が「妖精」たらんと競い合う。語り手の「ぼく」は犯罪映画のフリークとして、文字通り千枝子を「誘拐」する逃走劇を敢行するが、彼女の徹底した埒外への志向に敵うはずもなく──。
ボルヘス『幻獣図鑑』から安野光雅『噴版 悪魔の辞典』まで、千枝子の読書遍歴をたどりながら、「常套と要約の共通項は、その外にだけ黄金があることだ」という友人の至言に収斂する、言葉遊びと文学的レファレンスに富んだ一篇。文芸同人誌『海響一号 大恋愛』に寄稿。